1896年から2011年へ


現在東洋文庫では、2011年の東日本大震災で津波の被害に遭った場所の写真をいくつか展示しております。
実は東北地方は、約100年前の明治29年、西暦でいうと1896年にも、2011年と同じように、地震と津波に襲われていました。

この東北の地震の後、当時の大手出版社である博文館から刊行されている雑誌が、東北の震災を特集していました。
それが、文芸雑誌『文芸倶楽部』の七月臨時増刊「海嘯義捐小説(かいしょうぎえんしょうせつ)」号と、雑誌『太陽』七月五日号です。

『太陽』の方は純粋な報道ですが、興味深いのは『文芸倶楽部』「海嘯義捐小説」号です。

『文芸倶楽部』はそもそも文芸雑誌です。「海嘯義捐小説」号でも、森鴎外・尾崎紅葉・幸田露伴・坪内逍遥・樋口一葉・島崎藤村・田山花袋など、当時の文壇における大御所から新進作家まで多くの作家が作品を書いています。そしてこの雑誌の売り上げは、全額が被災地への義捐金に当てられました。

中でも興味を惹かれる作品は、巌谷小波(いわやさざなみ)という人物による「海嘯狂言 鯰聟」です。
あらすじは、竜宮城の王が娘の乙姫の聟を探そうと思い、「一芸を持つ者で、世界で一番大きな者」という条件を出して高札を立てると、地中で地震を起こすという一芸を持つ鯰がやってきて、海底の竜宮城でその芸を披露したところ、大きな津波が起ってしまった、という話です。
・・・私の拙いあらすじだけではあまり面白さは感じないかもしれません・・・。
しかし狂言はもともと笑いを誘う芸術です。鯰絵と同様、津波被害で傷ついた心を、狂言による笑いで癒そうという意図があったのではないかと感じられます。
舞台上で狂言師が鯰を演じる様子などは、想像するだけで笑いがこみ上げてきそうです。。。



『文芸倶楽部』も『太陽』も、どちらも古い雑誌ですので、残念ながら簡単に現物を手に取って読むことはできません。
しかし、これらの復刻版ともいうべき本が存在するのです!!

それが、『明治二十九年の大津波』(坪内祐三編、毎日新聞社、2011)という本です。

「海嘯義捐小説」号と『太陽』の、震災にかかわりのある部分を復刻しており、簡単に明治の雑誌が読めるのです!すばらしい・・・!!
気になった方はぜひ・・・

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