井伏鱒二の面影


本日は岩波文庫の誕生日らしいですが、どうもリクルートでございます。

何でも最近は地域の文化資産が、軒並み蹂躙される習慣が着実に根付きつつあるようで

たまたま今日が文豪・井伏鱒二の命日ですから、その関係のお話しにしますと…。

井伏さんは釣りが大好きだったので、そういった作品も書いておりますが

ちょうど猛暑たけなわなある日、荻窪の邸宅の近くに住んでいる地方出の

隣人に「どこか静かに文章でも書けるところはないか。」と尋ねると長野県の白馬村にいいところがあると

紹介し、さっそくひと夏の涼を求めて信州へ向かいます。

着くと長屋門付の大きい古民家で、何でも江戸時代から続く豪農の流れを汲んでいるとのこと。

民宿としても営業しており賑やかな様相でしたが

「静かなところで。」という希望で通されたのは、母屋からつながっている裏側の土蔵でした。

少し妙だと思いながら長い通路を奥へ歩いてゆくと、屋根が低いかと思ったら二階がちゃんとあり

窓もしっかりと嵌まった書院造の部屋でただの蔵ではなく「蔵座敷」を備え付けた近代和風建築

のものだったのです。

山あいなので、川釣りも出来、執筆もできひと夏をここで過ごしていきます。

ここで執筆した文章を後に地名や人物を置き換え発表されたのが「コタツ花」

今でも全集をはじめとして、読むことができます。

滞在の日々が終わり「さよならだけが人生さ」の、井伏さんがよく書いた色紙を残して荻窪へ帰ってゆきます。


彼がひと夏を過ごした土蔵の名前が「文庫蔵」という何とも因縁めいたものを感じずにはおれないですね。

現在も当時の場所に立ち続けておりますが、「丸八」の屋号がついた村有の土蔵は、取り壊しの意見もあるようで

先日も解体直前の建造物が貴重なものと分かり破壊を免れた報道がありましたが、

こういったものがちょうど、この時期に活用できそうですね。

最近のブログ記事