MODERN ASIAN STUDIES REVIEW Vol.5 新たなアジア研究に向けて5号
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アジア資料学研究シリーズ1 概要 昨年度の書誌学講習会で「漢字文献」をとりあげ,今年度はそのシリーズとして書誌学的アプローチから「西洋書籍」について,3つの小テーマに分けて講義をした。 第1日は「西洋文化と書誌学―西洋の視点 東洋の視点―」をテーマに3つの講演を行った。まず,一般的な知識として樺山紘一氏による「西洋書籍の歴史」で,印刷・出版と読書という観点をとりあげる。具体的にはアイルランドのチェスター・ビーティー図書館の沿革と古典籍の所蔵を具体例として,中世装飾挿画本から印刷本への変革をスライドでみる。また,ヨーロッパにおける印刷と出版における歴史的な変遷から本の歴史をとらえ,読書社会史という見方からモノとしての書物を考える。 次に,西洋の視点として,彌永信美氏の「西欧における東洋表象」では,中世以降の西欧における東洋についての表象の変遷をイメージで捉え,分析・考察する。具体的にルネサンスから20世紀の「最後の巨人たち」までの多くの事例をみていく。 最後に,東洋の視点として西アジアの翻訳事情をみていく。高橋英海氏の「西洋古典籍の古代・中世西アジアにおける受容」では,西アジアの言語による翻訳が発展していく過程を歴史的かつ地理的に考察して,古代・中世のシリア語およびアラビア語翻訳書の西洋書発展における歴史的役割を考え,その重要性および影響力を分析する。 第2日は,「西洋書とアジア―東洋文庫と西洋書―」として,東洋文庫の所蔵資料に関する講演を行う。村上衛氏の「海の近代中国とモリソンパンフレット」では,近代中国のアヘン貿易関連資料や海関報告書などの利用方法と研究成果を具体例として,近代の東アジア海域史の研究史におけるモリソンパンフレットの欧文文献の資料的価値と有用性について考える。 塚原東吾氏は,「科学史から見た西洋博物誌―日本との関係―」で,東洋文庫所蔵の動物学・植物学関係の書籍を用い,シーボルトをはじめとする西洋博物誌についての近年の科学史研究成果を検証し,日本との関係を書誌学史的に考察して,科学史関連書誌の発展と歴史的意義を考える。 濱下武志氏の「東洋文庫とモリソン・コレクション」では,モリソン一家とモリソン・コレクションについて概要と時代背景を知り,同コレクションの資料的価値と利用方法,その歴史的意義について考える。ここでは石炭を例にとりあげ,東洋文庫における資料研究課題を提起する。 第3日は「西洋書の製本・保存・補修」というテーマで,紙について考える。稲葉政満氏の「紙と色彩の保存環境と修復―利用のための保存―」では,紙と色彩の性質と劣化の原因を理解することで保存における問題点を考え,その対策と処置を具体例からみていく。また,それを前提として書籍の長期保存と修復について検証する。 江南和幸氏の「東伝製紙術と西伝製紙術の違いの起源」では,中国で出現した紙と発達した製紙術が他の地域に伝播していった経緯と,現存するトルファンと敦煌関係の紙資料の科学的分析から非伝播の製紙術を検証し,東伝と西伝の製紙術の相違点を明らかにすることで,その地域的特徴と紙の発展を歴史的に考察する。[東洋文庫アジア資料学研究シリーズ 2013年度]西洋古典籍書誌講習会西洋書籍と東洋研究ArticlesConferences& LecturesResearchActivities029

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