MODERN ASIAN STUDIES REVIEW Vol.9
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Inter-Asia Research Networksはじめに モリソン文庫が日本に渡来して,今年で百年。モリソン文庫とはG・E・モリソン(Dr. George Ernest Morrison, 1862-1920)の欧文書コレクション「アジア文庫(the Asiatic Library)」の通称である。モリソンはオーストラリア出身の冒険家で,『タイムズ』紙の北京駐在通信員,ついで中華民国外国人顧問に任じ,また稀代の蒐書家でもあった。 渡来以前から著名だったかれの蔵書コレクションのなかでも,ひときわ異彩を放ち,もはや二度と購い得ないといわれるものがある。6,000点あまりのいわゆる「パンフレット」類である。 このモリソンパンフレットは,文字どおりパンフレットというべき単行の小冊子ばかりのコレクションではない。モリソン自身が入手した新聞記事や雑誌論文,あるいは在外公館の文書,さらには,書店のカタログや招待状の類まであって,かれが集めたおびただしい書籍以上に,その生きた同時代の極東問題を表現し,重大な歴史的問題を解くとなる貴重な情報源なのである。歴史家・研究者からみれば,モリソン文庫のまさしく「白眉」にほかならない。 しかしこれまで,かくも高く評価されながら,モリソンパンフレットの内容を正確に分析し,その特徴を生かす体系的・本格的な研究は,きわめて少なかった。「パンフレット」一件一件が零細に過ぎ,整理も遅れたためであろう。「白眉」であるにもかかわらず,その可能性に見合う十分な活用が,必ずしもなされてこなかった。 そうした現状に鑑みて,この「白眉」に多方面から検討を加えたのが,このたび上梓した論集『モリソンArticlesConferences& LecturesResearchActivities「白眉」の運命―『モリソンパンフレットの世界』を上梓して岡本隆司著者図像1 『モリソンパンフレットの世界』059

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