MODERN ASIAN STUDIES REVIEW Vol.9
69/73

Inter-Asia Research Networks1.はじめに 古地図は様々な要因で劣化しており,地図本来の地名・地勢を基本とする古地図の調査では慎重な解析が必要になるが,古地図そのものの物理的な解析はさらに劣化を早める可能性がある。そこで,古地図の保存性・閲覧性を考慮し,超高精細画像処理により,得られたデジタルデータを解析することにより,古地図そのものが持つ色や文字領域の解析とあわせ色彩復元や地名・地形復元による可読性向上が計られることを検証する。ここでは描画手法解析,彩色構造解析,色彩画像処理および形態学的画像処理の結果集積から,古地図そのもののデータ集合:メタデータ化を図ることにより,古地図相互の比較研究含めた総合的な科学分析が可能となることを示す。2.混一疆理歴代国都之図 本図は,縦1,387 mm×横1,605 mmで516 mm・566 mm・543 mmに折り目を持つ絹本からなる。ここから製作時点において左右若干の幅の絹布が欠落しているものと考えられる。この絹布は60~160 µの絹糸の平織りの構造を持ち(図3),経年変化と軸装による荷重により文字領域とりわけ文字ストローク部や輪郭部において変形し,判読性の低下を招いている。(図2)図2中の暗色領域は,河川を示しているが水域は,海(塩水):青,湖・川(淡水):青もしくは薄い青,黄河:黄色と描き分けられていることが,わずかに残る彩色部から推定される(図4)。同様に,国都や都市名は墨色と赤色,島嶼部は白色,山脈は墨色による描き分けがなされている。図5は図4中央の都市名を囲む赤色領域を拡大したものであり,蛍光X線分析よりHgを主成分とする(他Pb)水銀朱が確認される。水域(海)についても,図6に示すように青色顔料が確認されるが,微量のCu,Feが検出されたが顔料を特定するには至らなかった。 描かれている細線や最小文字ストローク幅は,80~100 µ(0.08 mm~0.1 mm)と細密であり,ここから本図の現状を記録する必要解像度は,mm当り12本以上であり,このため(1,605 mm×47)×(1,387 mm×47)=約5億画素の十分な空間解像度でのデジタル記録,色深度:青および無彩色を優先し,RGB各16ビット階調とした。また,参考画像として,850 nmの赤外光撮影を用い,IR記録の特徴である墨色が鮮明な参照用として活用し,併せて過去に撮影された画像データを文字領域の鮮明化処理に利用した。ArticlesConferences& LecturesResearchActivities古地図のメタデータ保存・活用のための事例報告:龍谷大学所蔵『混一疆理歴代国都之図』岡田至弘著者図1 現状図2 劣化状況図3 織構造065

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer10.2以上が必要です